『歳三 往きてまた』
土方は黙して自室に引いた。
これといって考えることなどないのだ。
事実を事実として受けとめ、今までそうしてきたように、己のやれることをやる。
新撰組副長ごときに分かろうはずもない。
(中略)
新撰組は憎まれている。
この地上から消滅しつくすまで、敵は手を緩めはしないだろう。
闘うしかないのだ。
敵を屠るか屠られるか、修羅の道が眼前に果てもなく真っ直ぐと延びている。
絶望でも希望でもなく、決意だけが土方の胸の内にチラチラと燃えていた。
(ただ、前進すればいい、簡単だ。迷う余地すらありやがらねェ)
土方の頬が、薄い闇の中で笑みを作った。
『歳三 往きてまた』より
慶応三年、12月9日の描写。
ちなみに、坂本龍馬の暗殺が、この間にある。十一月十五日。
奇しくも誕生日と命日が、同じ日となるのもまた彼の人生がいかに劇的であったかを物語っているようである。
さて、土方。
事実を事実として、受け止め。
ただ、前進すればいい。
このくだりが、今の私に、最も響く。
2019 3 8 金曜日 20:50