『歳三 往きてまた』 2019 4 21 内藤隼人
周りに新撰組隊士がだれもいないというだけで、彼はいつになく気を抜いている。
新撰組副長土方歳三ではなく、旧幕府陸軍参謀内藤隼人でもなく、
ただの歳三の顔に戻り、薄暗くなりかけた部屋の中、
手枕を作りだらしなく寝転んで目を閉じている。
こんなふうに人の目を気にしなくてすむ時間を持ったのは何年ぶりだろう。
そうだ、
あれは幕府とは何のつながりもなく、
親友の近藤の経営している田舎道場試衛館に転がり込んで、居候の割りに大きな顔をさせてもらっていたころ、よくこうして寝ていると、
同じ居候の沖田総司と藤堂平助が未だ十代の少年で、くすくす忍び笑いをしながら近寄っては
悪戯を仕掛けてきたものだ。
何度叱られても構って欲しい一心で、二人は自分にまとわりついてきていた。
「土方さんは変わってしまった」
とは、藤堂が京の新撰組副長に向かって言った言葉だ。
土方は聞く耳を持たなかった。
変わらざるを得ないではないか。
多摩のトシさんでは新撰組副長は務まらない。
「不満か」
と聞くと、藤堂は寂しげに首を横に振り、
「わたしも……変わってしまった。ただ、過去が時々奇妙なほどに眩しく思えるときがある」
そう言った顔は哀しみを含んでいた。
『歳三 往きてまた』より
宇都宮戦線で、負傷し、今市に退いた土方歳三。
その回想に、哀愁を感じる。
変わった自分。
変わらざるをえなかった自分。
変わらなかった自分。
その狭間で、また新たに変わることを、変わったこと、変わりゆくことを受け入れていく彼。
2019 4 21 8:33
追記
ひとりの少年の命が犠牲になった。
幾多の命が散る戦場では、それまで取るに足らないとしていた彼が…
こう変わっていく、宇都宮~今市
「俺の斬った少年の墓を、東照宮ゆかりの日光にたててやってくれないか」
「自己満足の気休めかもしれないが」
「宇都宮戦を勝利に導いた少年だ。名誉の死を遂げたと墓石に刻んでやって欲しい」と。
前へ、前へと戦うしかない。
滅びゆこうが、突き進むのみ。
土方歳三。
男の意地と覚悟を感じる。
やるしかない!